サバイバル帰省日記3 ~「孫」という幻想に踊らされる大人~
例年ならお盆とお正月は実家に帰省する。
しかし、今年はコロナの影響もあって帰省できなかった。
サバイバル帰省しないで済んだものの、ネタが仕入れられない(笑)
そこで、私が数年前のGWに帰省した時のお話をご紹介しようと思う。
「孫が欲しい」と熱望し、私にプレッシャーをかけまくっていた母が、孫という生き物の現実に直面した時のエピソードである。
私の母(ばあば)は、定年を迎えるまでずっと看護師として働いてきた。
世の中の方には、ずっと働き続けてきた女性というと、ものすごいバリキャリのように感じられる方もいるかもしれない。
しかし、ウチの母は全く違う。
仕事が好きだったというよりは、家事に向かなかったのである。
本人曰く、「家にいるより仕事してた方がイイじゃん」とのこと。
また、母は新しい物好きではあるけれど、今もなお再雇用で働き続け、社会との接点を失っていない割には、保守的である。
さすがに、自分ができなかったからか「女は家庭に入るべきだ」とは言わなかった。
それでも、事あるごとに独身で30オーバーの私に「結婚はした方がよい」とか、「子育ては良い経験になる」と言っていた。
さすがにこればっかりは「ご縁」なので、私一人ではどうにもできないんだけれど・・・
娘が出産の限界年齢へと近づくにつれて、その種の発言を繰り返すようになる母。
しかし、この時のGWを境に、ついに母の口から「孫が欲しい」が出なくなった!
その原因は、妹が産んだ「孫」ご本人である。
1歳を過ぎたばかりの、かわいい盛りの孫Iくん。
至って普通の1歳児。
もちろん、彼は何も悪くない。
悪いのは、「孫」の幻想に踊らされた大人、つまり母ご本人である。
孫は夜泣きはするし、うんち、しっこ、は垂れ流す。
おむつは1日に何度も替えなければいけないのに、大抵の赤ちゃんはおむつ交換を嫌がる。
孫Iくんももちろん大嫌い。
毎回泣きわめき、力いっぱい暴れまくる。
おむつだけではなく、子守をしていたら息つく暇などない。
この頃、ハイハイとつかまり立ちを覚え始めた孫Iくん。
ハイハイをしだすと、もう目が離せない。
彼のお気に入りは、ゴミ箱(笑)
居間から台所まで、目を離した一瞬の隙に移動し、隠していたゴミ箱を探し出す。
ものすごいハンター!
そして、ゴミ箱を倒して、お菓子のフィルムを引っ張り出して口に入れる。
味がするらしい。
ペットボトルのキャップも好きだった。
何でもお口に入れたいお年頃。
子守をする人は、ゆっくりテレビを見ることはできないのだ。
毎晩のお風呂も大変。
孫Iくんはお風呂も大嫌い。
お昼寝で回復した体力全開で、毎晩大泣きして暴れる暴れる。
子供は元気でも、大人はへとへと。
お風呂に入れるのは、2人体制でないと務まらない。
一緒にお風呂に入る人と、外で着替えやらミルクの準備をする人、2人が不可欠。
何とか服を脱がせてお風呂に連れて行った、と安心したのもつかの間。
一緒に入っていた妹から、「出るよー」との掛け声が。
びしょびしょの孫をキャッチして、体を拭き、ベビークリームをぬり、服を着せ、ミルクを飲ませながら髪を乾かす。
これを毎日、毎日行うのである。
加えて孫Iくんは、ばあばに抱っこされるのが大好き。(今はじいじ大好き)
ばあばを見るたびに、抱っこをねだっていた。
こうして、負担が重なり、それが日々積み重なって、ついに母(ばあば)は崩壊した。
肩と膝、腰を痛め、手は腱鞘炎になった。
そりゃそうだ。自分が子育てしていた時とは、年齢と体力が違いすぎるでしょ!
そうして満身創痍で迎えたGW、いえ、子守週間。
シフト制の妹は仕事へ。
残されたのは、母(ばあば)と父(じいじ)、そして帰省した役に立たない子育て未経験の私。
そして事件は起こった。
それがうんち横モレ事件である。
孫Iくんが、うんちをパンパースから見事に横モレさせたのである。
子育てをしたことがある方からすれば、それは事件とは呼べないレベルである。
しかし、この時の母は違った・・・
私は帰省して数日お手伝いしていただけなので、まだ「アハハ!」と笑っていたけれど、母は無表情になった。
完全に母のコップの水があふれた瞬間だった。
都合のいい時だけ孫を可愛がり、都合が悪くなると一人で本屋へ逃げる父(じいじ)も悪かった。
笑っていた私も、全く空気を読めていなかった。
私にしてみれば、日頃暮らしている関西のノリとツッコミ的な感じで「うんこ漏れたで~!」と明るくしたつもりだったのだが、東北人の母には全くウケなかったばかりか、怒りのスイッチをさらにダメ押ししてしまったようだった。
横モレをじぃっと見つめた母は、無言になった。
そして遠くを見つめて、「アンタ、ちょっと風呂場連れて行って」と、ポツリ。
スケバンから体育館裏に呼び出される1年生のような気分。
私は頷いて、泣いている孫Iくんをうんこが自分の体に付かないように持ち上げ、お風呂場に連れて行く。
服を脱がせていると、母がやってきた。
そして、何も言わずに泣き叫ぶ孫Iくんに無表情でシャワーをかけ続けていた。
泣き叫ぶ孫。
無表情の母。
本当にあの時の顔は怖かった・・・
それ以来、母は「孫がほしい」とは一言も言わなくなった。
家長だと威張り、怖かった父は、10㎏の孫を抱きかかえるのがやっとの好々爺になった。
母がポツリ。
「結婚して幸せそうにしている人って、あんまりいないわね」
結婚=幸せではない。
結婚したら、誰でも幸せになれるわけではないのである。(もちろん幸せな人もいる)
孫も然り。
孫がいる=幸せなおばあちゃん、ではないのだ。
「孫が欲しい」
その気持ちは分かるけれど、子育ては本当に大変。
実の娘の私であれば「できない」とはっきり言えるけれど、これを何も考えずに弟のお嫁さんに言っていたら、と考えるとぞっとした。
みんなそれぞれ事情があるのだ。(幸い弟夫婦にも子供が2人授かった)
今の時代、「おばあちゃん」になるには、気力と体力とおカネが必要だ。
私が生まれたころは、祖母は55歳だったらしい。若い!
昔は結婚も出産も早かったから、「おばあちゃん」は元気だった。
孫は可愛い。
私には甥っ子にあたるIくん。
甥っ子でもこんなに可愛いのだから、孫なら尚更だろう。
ただ、現実は甘くない。
疲労は溜まる。
確実に。
抱き上げるたびに、腕が、膝が、腰が、確実に疲弊していく。
かくいう私も、5日間帰省する予定だったが、1日早く自宅へ帰ってきた。
慣れぬ子供に、そして子供中心の生活に疲れてしまったのだ。
保母さんは、本当にすごいと思った。
世の中のお母さんたちも、改めて本当にすごいと思った。
後日談
1日早く自宅へ帰った私だったが、モロに風邪をひき、3日間立ち上がれず、固形物が喉を通らなかった。子供からもらう風邪はひどいと聞いたが、本当だった・・・
おまけに、結膜炎という「お土産」までもらい、出勤停止をくらったのだった。
恐るべし、孫!